初めてバリを訪れた、30年ほど前のこの海辺の町の印象は、なぜか“懐かしさ”でした。
私の故郷は仙台。この常夏の島とは似ても似つきません。しかし、人々の素朴な暮らしぶりや、路地裏や海岸で遊ぶ子どもたちの屈託のない笑顔に、私が幼少期に育った頃の仙台の面影を、垣間見たからだと思っています。
以来、何度かサヌールへの滞在を重ねながら、スケッチブックをリュックに入れ、町の風景を描き始めました。町の雰囲気、バリの風を肌で感じるひと時に没頭していました。
この島の人口の9割を占めるバリ人は、バリヒンズー教とともに生きています。
家々の祠、玄関まわりを彩る花々のお供えもの“チャナン”は、彼らの信仰心が、毎朝再生されていく象徴で、この鮮やかなお供えものが出そろうお昼近くになると、海辺の容赦ない光が町なかを染め尽くします。目抜き通りも、路地も。高級ホテルの庭も、長屋の中庭も。空は青く、草木は深い緑色に。花は紅や黄、藤色に。太陽のパワフルで公平な日差しの下で
人々は祈り働き、そして少しだけ気だるくなるのです。そして私も・・・。